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名古屋高等裁判所 昭和43年(ネ)40号 判決 1969年8月29日

主文

原判決中第一審原告勝訴部分を取消す。

第一審原告の請求を棄却する。

第一審原告の控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二、三審を通じ第一審原告の負担とする。

事実

第一審原告訴訟代理人は「原判決中第一審原告敗訴部分を取消す、第一審被告は第一審原告に五一三、〇〇〇円について昭和三四年五月一三日から支払ずみまで日歩九銭八厘六毛の割合による金員から年六分の割合による金員を差引いた金員を支払え、訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする」との判決と仮執行宣言および「第一審被告の控訴を棄却する」との判決を求め、第一審被告訴訟代理人は「原判決中第一審被告敗訴部分を取消す、第一審原告の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする、第一審原告の控訴を棄却する」との判決を求めた。

第一審原告訴訟代理人は次のように述べた。

「春日商工株式会社は昭和三二年八月二七日(甲第九号証)設立登記を経て設立した会社であるが、同年一二月九日第一審被告に五七万円の現金を貸与した。ところが、右会社は昭和三三年九月二〇日解散し(同日その旨登記)たが、そのころ右会社は前記第一審被告に対する貸金債権を第一審原告に譲渡し、その旨第一審被告に通知した。昭和三四年四月一三日に第一審原、被告は右貸金につき元利金を計六七六、〇〇〇円としこれを第一審被告は昭和三四年五月一三日までに返済すべく、その返済を怠つたときは日歩九銭八厘六毛の割合による遅延損害金を支払う旨約した。

よつて、第一審原告は右貸付金中五一三、〇〇〇円とこれにつき昭和三四年五月一三日以降日歩九銭八厘六毛の割合による遅延損害金との支払を第一審被告に求める。」

第一審被告訴訟代理人は次のように述べた。

「春日商工株式会社が第一審原告主張の日に成立および解散登記がされていること(ただし解散の日は昭和三三年九月一〇日である)、昭和三三年二月一五日当時第一審被告が右会社に日掛借入金残二〇九、四〇〇円(三一二、〇〇〇円を借入れ、日掛で一〇二、六〇〇円返した残)と手形借入金二四三、〇〇〇円の計四五二、四〇〇円の債務を負つていたこと、昭和三八年一〇月一八日すぎ第一審原告主張の債権譲渡通知を受けたことは認めるが、その余の第一審原告主張事実は否認する。第一審原告は昭和三四年四月第一審原、被告間で元利金を六七六、〇〇〇円とする等の合意をしたというが、その事実はない。第一審原告は都築金助外五名から返済能力もないのに五〇〇万円を借入れたことから、右貸主から詐欺罪として告訴された。そのため第一審原告は第一審被告に手形の振出方を嘆願したので、第一審被告は昭和三四年四月金額、振出日空白の約束手形(甲第一号証)に署名の上交付した。第一審原告はこれに金額を六七六、○○○円、振出日昭和三四年四月一三日と書き入れた上、右告訴事件を取調べた警察官に示して貸金債権があるように見せかけた。そして、本訴で右手形を根拠に前記のような主張をするに至つたのであるが、第一審被告が、第一審原告主張のような約束をしたのではないことは右のことから明らかである。元来、第一審被告は第一審原告に何らの債務を負うものではない。すなわち、

(一)  前記会社に対する債務につき第一審被告は日掛で昭和三三年二月一六日から昭和三四年三月四日までに一九二、六〇〇円、翌五日から昭和三五年三月二一日までに一二四、○○○円、翌二二日から昭和三六年八月二八日までに一二四、○○○円、翌二九日から同年一二月二九日までに四三、○○○円と合計四八三、六〇〇円を支払つた。すなわち、前記債務四五二、四〇〇円は第一審被告が債権譲渡通知を受けた昭和三八年一〇月までに第一審被告において右会社に弁済ずみである。

(二)  春日商工株式会社の解散に伴いその清算人になったのは第一審原告一人である。そうであつて見れば、右清算会社から第一審原告への債権譲渡は商法第四三〇条によつて準用される同法第二六五条に反し無効である。

(三)  商法第四三〇条により同法第二五九条から二六〇条の三が準用されているところから見れば、清算会社については取締役会に代わる清算人会が存在せねばならず、従つて清算人は二人以上なければならないこととなる。にもかかわらず、右会社の清算人は第一審原告一人なのであるから、同原告が右会社を代表してした債権譲渡は無効であるし、前項主張の商法第二六五条所定の取締役会に代わる清算人会の決議も存在しえない。

(四)  商法四四五条によれば、三、〇〇〇円をこえる清算会社財産処分をするについては監査委員か債権者集会の承認がなければなしえないのに、右債権譲渡はかかる承認なくして、されたものであるから、無効である。」

第一審原告訴訟代理人は次のように述べた。

「(一) 第一審被告の弁済の主張のうち一六三、〇〇〇円の弁済があつたことは認めるが、その余は否認する。

(二) 春日商工株式会社解散後第一審原告がその唯一の清算人であることは認める。しかし、右会社の取締役は石田伝八、家田増次郎、竹本武兵の三名とされていたものの、実際は第一審原告が金融業を営むにつき設立したもので、その資本金はすべて第一審原告が出資し、その運営には第一審原告が当り、右取締役三名はいずれも名義だけで、実際は家田が会社使用人として勤めていただけで、会社運営には三名とも関係していない。右会社が他に貸付けた金も第一審原告の手持金あるいは他から借りて調達した資金であつた。従つて、右会社の事業が行きつまつた後は、第一審原告が借入先に弁済をしている。以上の事実は、会社債権者ないし会社の保護を目的とする商法第二六五条の適用を前記第一審原告への債権譲渡について排除する特別の事情に当るものというべきである。

右のように、春日商工株式会社は第一審原告個人の実質経営するところであり、その法人格は全く形にすぎないのであつて、このような場合あるいは法人格が法律の適用を回避するため乱用されているような場合は、かかる会社と取引したものはその会社の法人格を否認して実体たる個人の行為としてその責任を追求しうるものであるから、かかる会社については商法第二六五条所定の手続は要しないものというべきである。

しかも、右会社から第一審原告への債権譲渡については右会社の取締役全員これを承諾し異議はなかつたのであるから、取締役会の承認があつたものというべきである。

(三)  右清算会社には監査委員はなく、また右会社への債権者はいなかつた。債権者ありとすれば第一審原告だけであつた。」

証拠(省略)

第一審原告訴訟代理人は乙第一、二、三、五号証の成立を認める、その余の乙号各証の成立は不知と述べた。

理由

まず、第一審原告主張の債権譲受けの点について判断する。

成立に争のない乙第五号証によると、春日商工株式会社は昭和三三年九月一〇日株主総会の決議により解散したことが認められ、その登記が同月二〇日されたことは当事者間に争がない。次に、第一審原告はその主張債権を昭和三三年九月右解散のころ譲受けたと主張し、第一審における第一審原告本人尋問の結果(第一回)によると、右譲渡の日ははやくとも右解散、その登記の日より後であると認められ、これを動かすにたりる証拠はない。

ところで、株式会社の清算人については、商法第四三〇条第二項で準用される同法第二六〇条、第二六一条等の規定から見れば、清算人は少くとも二人以上あることを要し、これらを以て組織する清算人会が会社の業務執行を決すべく、またそれら複数の清算人のうちから会社を代表すべき清算人が定められねばならず、その代表清算人のみが会社清算に関する代表権限を有するものというべきである。ところが、右会社の解散に伴い清算人となつたのは第一審原告一人であることは当事者間に争がないのであつて見れば、清算人会とてありようがなく、従つて第一審原告が代表清算人と定められたこともないものというほかない。そうすれば、第一審原告主張の会社債権譲渡を会社を代表してした第一審原告はその代表権がないので、その譲渡は無効ということとなる。

また、右の点をおくとしても、会社とその清算人との間の会社債権譲渡については清算人会の承認がなければ無効である(商法第四三〇条で準用される同法第二六五条)ところ、第一審原告は右譲渡につき清算人会の承認があつたとは主張していないし、前記のところによれば右会社については清算人会の存する余地はないのであるから、その承認のありえようはずもないわけである。また、解散前の取締役会ないし取締役の同意を以て清算人会の承認にかえうべきものでもないから、それらの同意あることを以て右譲渡が有効であるとする第一審原告主張も理由がない。

さらに、第一審原告は、右会社と第一審原告との関係などの特殊性をあげ、右二六五条の規定の適用を排除すべき特別事情があると主張するが、その特別事情に当るとして主張する事実は、本件についての最高裁判所上告判決で右規定の適用を排除すべき特別の事情とはいえないと判示されたところを出ないものであり、しかも右のような特別事情に当ると解すべき事実は本件全証拠によつてもこれを認めがたい。

第一審原告はなお、右会社はいわば第一審原告の個人営業の仮面にすぎないとしてその法人格否認を主張する如くであるが、いわゆる法人格の否認を主張しうるのは、かかる会社ないしその実質主体の個人以外の者たるべく、その会社形態を利用した個人が時には会社形態を主張し時にはその法人格を否認するなどということは許されないものと解すべきであるから、右主張も採用しえない。

以上のように、第一審原告主張の債権譲受は無効であつて、第一審原告はその債権を取得したものではないから、その取得したことを前提とする第一審原告の本訴請求は他の点を判断するまでもなく、すべて失当というべきこととなる。そうすると、第一審原告の請求を一部認容した原判決部分は失当であるからこれを取消し、右請求とともに第一審原告が当審で追加した新請求(第一審原告は原審では昭和三四年五月一三日以降日歩九銭八厘の遅延利息金の支払を求めていたところ、当審ではこれを九銭八厘六毛の割合に拡張した)を棄却すべく、原審が第一審原告請求中その一部を棄却したのは正当であるから、その取消を求める第一審原告の控訴はこれを棄却すべく、訴訟費用は、第一審以降当審に至るまですべてを敗訴した第一審原告の負担として、主文のとおり判決する。

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